地元散歩
ふと、散歩に出かけることにした。
散歩といっても、本当に地元を歩くことだけの散歩。
天気が良いし、家にいてもまた音楽やゲームで時間を潰してしまいそうだったので
(アプリゲームのイベントが始まってしまったこともあり)
何も考えないで家を飛び出し、気づいたら、駅までの道のりを音楽を適当に流しながら、のんびり歩いていた。
服装も昨日の服がまだ洗濯されていなかったのでそれを着てきた。
昨日、会った人にもし出会ってしまったら笑われてしまいそうだと、少し頭をよぎったけれどまあ、それはそれでいいか、と思った。
行く先を決めていない散歩ほど、自然と行く先は決まるもので知らず知らずのうちにカラオケに向かっていた。
自宅から徒歩で2時間ほど、普通の人なら歩くのを渋る距離だけど幾度となく大学をズル休みしてはカラオケに行っていた僕にとっては慣れたものだった。
(決して褒められたものではないので、一応しっかり単位は取ってること明記しておく)
いつも通り、自動車道を超えて、その道路の右側、新幹線が通る線路が敷いてある陸橋下の右側歩いて向かおうかと思っていたのだけど、自分の冒険心()がそれを許すはずもなく、ためしに自動車道の左側を通ってみることにした。
とはいうものの、そう考えてついたのは、道路の右側を歩き始めたときだったので、どう向こうの小道に出ようかと思って、まあ、そのうち渡れるかとなんとなく歩いていた。
すると、見つけた。
自動車道の下に小さなトンネル。
ぎりぎり軽車両が潜れるかどうかというトンネル。
どこにでもある、でも、全く同じものはどこにもないようなそんなトンネル。
僕はなんとなく無性に入ってみたくなった。
誰もいないし、何があるわけではないがトンネルまで走って行った。
少し行きを切らした僕は、息も整えずそのままトンネルに飛び込んだ。
不思議な空間だった。
コンクリートに囲まれたひんやりとした雰囲気に、日の傾きによってたまに入り込んでくる陽の光、その下に生える植物。
トンネルの壁には不良の落書きと長年の傷や軋みが絡み合ってる。
何故か懐かしい気分になった。
子供の頃は、わざわざ家からゲーム機を持ち出しては日中、陽の下では画面が見えないのでこういう場所でこっそりゲームをしていた。
その時の自分はゲームをしたい一心でトンネルに潜り込んでいた。太陽が邪魔で仕方なかった。
そこまで、思い出して、何故、こんなにトンネルに心が惹かれたのかわかった気がした。
おそらく僕はトンネルではなく、トンネルの中の思い出に惹かれたのだろう。
無意識に。
しかし、猛烈に。
思い出はいつだって美しい。
思い出を思う自分の気持ちだけは美しい。
すこしトンネルの中に佇んで、イヤフォンを片耳から外した。
相当な音量で聴いていたので、外に音楽が漏れた。トンネルの中に反響する。
僕は今、こういう音楽が好きらしい。
過去の自分にそう告げてトンネルを後にした。